2013.04.16
2013年3月2日 道民会議シンポジウム/対談 猪風来氏×阿部千春氏
猪風来氏)中空土偶を再現した様子をいくつか写真で紹介します。
これは足の一番先のほうですね。私も指でなでることはしないで、ちょうど文様の区切りで割ることが可能なように作りました。
このように下から完成させていきます。土器とまったく同じ技法です。土偶は土器を作る技量がなければ作ることはできません。土器作りの最高の技量の持ち主が、このカックウを作ることができます。文様は縄を2本、右巻きと左巻きの縄を使ってつけます。繊維はアカソというもので、阿部さんから提供していただいたものをなって作りました。縄にもこだわっています。
これは盛り上がった隆線文をつけているところです。1ミリほどの細い紐を貼りつけて形を作ります。
下の部分ができました。このように作って少しおきますと乾燥してカチッとします。それから上を作っていきます。上と下の乾燥のバランスもとれていなければ、上に積んだとたんふにゃっとしてしまいます。それから、土偶の完成した姿を頭に描いていなければ、このように作ることができません。縄文人はすでにそのトータルな形を描くことができたのでしょう。頭のなかにと言うよりも、魂のなかに、多視点、多時間、多次元的に、すべてを認識できたのです。
全体は3ミリから5ミリくらいの厚さで、厚いところは7ミリくらいです。重量がかかって腕が取れるかもしれない、というような部分には粘土を厚くしています。全体の建築学的なバランスを十二分に理解している人でなければ、これを作るのは不可能だと思います。おそらく土偶のなかでこれが一番難しいと思います。
お腹の正中線は少しずらし、シンメトリーを意識的にはずしています。この土偶を作った人ならシンメトリーにぴたっと作る技量は充分にあると思いますが、すべて意識的にはずしています。この土偶は一見すると「静」ですが、そこに「動」を加えています。たいへん絶妙な造形美ですね。これはあらゆるところに見られます。たとえば足です。これから歩行するかのごとく、片足をちょっと前に出しています。
下が乾燥しないようにカバーして上を作り、やっと全身ができました。腕も再現しましたが、腕がとれているところに文様が残っていたので、そこから推測しています。全体の文様のバランスと他の土偶なども参考に、腕にも文様があったことがはっきり確認できたので、このように再現して作りました。
これを弟子の村上原野と二人で野焼きしました。中空土偶は空気を包み込むような形ですから、非常に割れやすい形状です。土器のように開いていると割れにくいのですが、閉じていると水蒸気を抱き込んでしまい割れることが多いのです。このときは2体用意しました。割れると番組がおしまいになってしまいますからね。
野焼きは最初にあぶり焼きをします。まず野炉の中心に木材を積んで焼き、土偶は火の外においてあぶり焼きするのです。次になかに土偶を置いて焼き、外から円形に炎で包み、その炎をどんどん詰めていきます。最後には全部をおおってしまいます。この木も縄文時代と同じように山から採集して使いました。
温度が650度くらいになると、なかに結晶化している水分が外に出てきます。それが外に出るともとに戻らなくなり、土器として使用可能になります。土偶も同じでそこをクリアしなければいけません。これは火が一番大きくなったところで、温度は950度くらいです。野焼きでは1000度を超えることは難しいですね。測定器で測ったこともありますが、器械が割れてしまいました。
色合いがちょうどよい褐色に焼きあがったところです。このあと、ススキなどを使って「いぶし」をやります。いぶすことでいろいろな色調が出ますが、中空土偶は明確に「いぶし」をかけています。なぜいぶすかと言うと、黒がベースにあると赤が映えるからです。
これが焼き上がった完成品です。頭の髪のところは片方が大きく、片方が少し小さい。このように縄文の技法を忠実に再現して全身を複製しました。